心不全
心不全とは
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、体内の必要な組織へ十分な血液を送り出すことができなくなった状態を指します。単なるひとつの病名ではなく、さまざまな心臓の病気が最終的に至る共通の病態を表す言葉です。そのため、心不全は「状態」であり、多くの病気の進行の結果として現れる症候群とも言えます。一般の方には「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とも説明されています。
心不全は、一度発症すると、長い経過の中で急激に状態が悪化する「急性増悪」による入退院を繰り返しながら、徐々に身体機能や生活の質(QOL)が低下していく病気です。
近年では、心臓の収縮力(血液を押し出す力)の指標である「左室駆出率(LVEF)」に基づいて、大きく2つのタイプに分けて診断・治療が行われます。
HFrEF(ヘフレフ:収縮能の低下した心不全)
心臓の筋肉が弱り、血液を送り出す力が低下してしまった状態です。
HFpEF(ヘフペフ:収縮能の保たれた心不全)
血液を押し出す力は保たれているものの、心臓が硬くなって十分に膨らむことができず、血液をうまく取り込めなくなった状態です。高齢の患者さんなどに多く見られます。
欧米では、心不全は非常に頻度の高い疾患であり、1,000人あたり約7.2人が罹患していると報告されています。日本でも高齢化や生活習慣の欧米化が進む中で患者数は急激に増加しており、現在では約120万人以上の方が罹患していると推測されています。2025年には約128万人に達するとも予測されており、今後は**「心不全パンデミック」**と呼ばれるほどさらに深刻な国民病となることが懸念されています。
心不全を起こす疾患は?
心不全を起こす要因には幅広く多様な病気があります。
心筋の異常
- 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)
- 心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症など)
- 心毒性物質(アルコール、抗がん剤、抗不整脈薬など)
- 感染性(ウイルス性心筋炎、細菌性心筋炎など)
- 免疫疾患(関節リウマチ、多発性筋炎など)
- 内分泌疾患(甲状腺機能亢進症、クッシング病など)
- 代謝性疾患(糖尿病など)
血行動態の異常
- 高血圧
- 弁膜症
- 心外膜炎
- 貧血
- 腎不全
不整脈による異常
- 頻脈性不整脈(心房細動、心室頻拍)
- 徐脈性不整脈(洞不全症候群、房室ブロック)
心不全の治療
心不全の治療で最も重要なのは、原因疾患を適切に見極め、それに応じた治療を行うことです。たとえば、狭心症や心筋梗塞が原因であればカテーテル治療、弁膜症が原因であれば手術による弁形成術や弁置換術が必要になることがあります。原因となっている病気に対する根本的なアプローチなしに、心不全そのものをコントロールすることは困難です。
その一方で、心不全の進行に伴って生じる症状や体内の変化には共通点が多く、それらに対しては標準的な薬物治療が確立されています。特に心不全の長期的な治療では、単に症状を和らげるだけでなく、心臓の負担を軽減して予後(長生きすること)を改善することを目的とした複数の薬剤を組み合わせた治療が中心となります。近年の治療方針は「HFrEF」と「HFpEF」で分けて考えられています。
HFrEF(収縮能の低下した心不全)の治療
HFrEFに対しては、長年の研究から生命予後を改善する確かな治療法が確立されています。とくに近年では、「ファンタスティック・フォー」と呼ばれる4つの優れたお薬(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)が治療の主役として推奨されています。これらを早期から組み合わせてしっかり治療を行うことで、心臓の働きを助け、再入院を防ぎ、患者さんの長生きを強力にサポートできるようになっています。
HFpEF(収縮能の保たれた心不全)の治療
一方でHFpEFに関しては、これまで予後を劇的に改善するような有効なお薬が少ないのが実情でした。しかし最近になって、「SGLT2阻害薬」がこのHFpEFに対しても効果を示すことがわかってきたほか、新しいタイプの「MRA」の一部(フィネレノンなど)も心不全予防に効果を示すことが期待されており、少しずつ治療の選択肢が広がってきています。
心不全の主な治療(薬物療法・非薬物療法)
- ACE阻害薬
- ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
- β(ベータ)遮断薬
- MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
- ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
- SGLT2阻害薬
- 利尿薬
- 血管拡張薬
- ジギタリス
- ICD/CRT(植込み型除細動器/心臓再同期療法)
- 心臓リハビリテーション
